学生時代の終わりに、ひとりでニューヨークを訪れた。
お金もろくに持っていなかったから、ユースのドミトリーに荷物を置いて毎日美術館に通い、脚が動かなくなったら外に出てホットドッグで簡単に食事を済ませ、また街を歩いた。
居抜きで入った華やかなショップが営業している古い建物やロングランのミュージカルを覗いたり、道端のぼろぼろのゴミ箱や映画で観たことのある摩天楼を眺めたりしながら、この世界はなんて広くて深いんだろうと思った。
雨に濡れたアスファルトと、傘を差してバスを待つ親子を見ながら、生まれて初めて寂しいと思った。
自分にもこういう感情があるんだということに初めて気付いた。
気に入っていた大きめのフードパーカーは同部屋の若者に譲った。
もうそろそろ外の世界に出てもいい頃なんだろうなと思った。