Lectio

似合いますか

-文学好きの長女を、自分の思いどおりに育てようとした父と、

どうしても自分の手で、自分なりの道を切りひらきたかった私との、

どちらもが逃れられなかったあの灼けるような確執に、私たちはつらい思いをした。

いま、私は、本を読むということについて、父にながい手紙を書いてみたい。

そして、なによりも、父からの返事が、ほしい-

須賀敦子 『父ゆずり』

Lectio

春は尾長であり、秋から冬にかけては “つぐみ” である

-「道に迷ったのか」とべつのときは云う、「きみはどこへいきたいんだ」

尾長鳥は私を見、左を見、右を見る。少しもおちつかず、ガラス戸を叩いたり、上下左右に警戒の目を怠らない。

私は溜息をつく、道に迷っているのはおれ自身だ、と私は両手で眼を覆いながら思う-

山本周五郎 『わが野鳥たち』