-久しぶりに帰省して親兄弟の中で一夜を過ごしたが、
今朝別れて汽車の中にいるとなんとなく哀愁に胸を閉ざされ、
窓外のしめやかな五月雨がしみじみと心にしみ込んで来た。
大慈大悲という言葉の妙味が思わず胸に浮かんでくる。
昨夜父は言った。お前の今やっていることは道のためにどれだけ役にたつのか、頽廃した世道人心を救うのにどれだけ貢献することができるのか。
この問いには返事ができなかった-
和辻哲郎 『哀愁のこころ-南禅寺の夜』
むかし、殆ど同じ意味の言葉を父から問いかけられたことがある。
そのときに救われたのは世道人心ではなく、僕自身のこころであったけれど。