
-私は若いころにヨーロッパ各地を歩きましたが、たった五〇〇人くらいの町でこんな美しい町があるのかと感心したことがありました。
日本で五〇〇人くらいの町であればただの田舎でしかないことが多いように思います。
つまり、そこには理想や文化がないからです-
水戸岡 鋭治 『電車をデザインする仕事』
あるいは、「我々にはあなた方に誇るようなものはないですから」と思いながら暮らしている人々が、我が国には多過ぎるのかもしれない。
以前、夜行列車を途中下車して北国の鄙びた温泉街に立ち寄った際、宿の主人が町と温泉の歴史について教えてくれたときのことを思い出した。
「他にはなにもありませんけどね」と、誇らしさと寂しさが入り混じったような表情で彼は言った。
この国の田舎らしい、とても美しいまちだった。