IdeaLiving

今日が終わるのが

小さい頃、自分の人生にもやがて終わりが来るという事実を受け入れられなくて、うまく眠れない時期があった。

暖かい布団に包まれて眠ってしまえばこのまま朝が来ないかもしれない。いつもの朝の光が僕を起こしてくれない時が来るかもしれないという「可能性」は、あの頃の僕の心にくっきりとヒビを入れた。

もう少し大きくなって毎日が忙しくなるとそんなことを思い煩うような時間も余裕も無くなって、その時の気持ちは奥の方にしまいこむことができた。あるいは、成長期に訪れた巨大な睡魔がどこか遠くへ押し流してくれたのかもしれない。

それでも時々、あたりまえのように毎日を過ごせていることを不思議に思うことがある。

子供たちの頭を撫でながら寝かしつけている時。もうこの世にはいない昔の人が書いた小説を読んでいる時。ひとりで散歩している時。

先日、もうすぐ小学生になる子供が夕飯のときに「今日が終わって欲しくない」と突然泣き出したのを見て、人間ってなんて美しいんだろうと思った。

人の寿命を誰が決めているのか僕には全然わからないけれど、もう少し時間が欲しいとあらためて思う。

GastronomieStyle

長い眠りにつく前に

ふと思い立って、朝いちばんの電車に飛び乗って成田山新勝寺にお参りに行く。

初めて訪れる門前町は、こんな時代でも多くの人を惹きつけるらしい。

自分もこの一年の感謝と来年への願いを込めて手を合わせる。

なんとなく清らかな気持ちで参道を歩いていると、だんだんお腹が空いてくる。

「天然ものの鰻は冬眠の前に栄養を溜め込むから本当は秋冬がおいしいんだよ」みたいな話をどこかで聞いたことを思い出して、なるほどそうかと頷いてみる。

養殖が主流になった現代でも同じことが言えるのか良くわからないけれど、言われてみれば秋冬に食べる鰻もまたふっくらとしていておいしい(ような気がする)。

冬眠はしないまでも、年末年始にぬくぬくゴロゴロしようと考えている自分がおいしいものを食べて栄養を溜め込んでいる。

人間も、鰻も、たぶん他の生きものも、この時期は大体似たようなものなんじゃないかな。

GastronomieStyle

喫茶店のホットケーキ

どこかでコーヒーが飲みたい、飲みたい、と考えながら散歩していると、近くにホットケーキとブレンドのセットが評判のお店があることを思い出す。

喫茶店の良いところは、カウンターが広々と取られているお店が多く、ひとりで入っても誰かと話すことを強いられない適度な自由さが感じられるところかなと思う。

お店自慢の珈琲を頂きながら、ときどき、目の前の鉄板で焼かれるホットケーキに目をやる。

バターを乗せて、シロップをかけて、熱々の生地にナイフを入れるところを想像しながら、読みかけた文庫を鞄にしまう。

LivingStyle

アリーナの楽しみ

アルバルク東京のホームゲームのチケットを頂いたので長男と観戦に。

代々木体育館って勝手に呼んでいたのだけど、国立 “代々木競技場” だということに今になって気付く。

めずらしく早めに会場入りできたので、途中で見つけたハーゲンダッツを食べながらパンフレットに目を通す。

ゲームまで少し時間があるので探検を兼ねて場内を散歩。息子はホストチームの名前の入ったペンライトを持ってホクホクしている。

アリーナで大きなゲームを観戦するのは何年振りだろう。

コートで戦っている選手たちが発する声やシューズの音、一緒に観戦する人たちの熱気、ノリの良いBGM、クォーター毎のプチイベント。皆で見つめるスコアボード。

バーチャルも良いけれど、生身の、フィジカルな人間同士のぶつかり合いってやっぱり迫力があって、夜眠るまで心地よい興奮が残っていた。

Style

休日を楽しむ。

息子たちを習い事に送り出して、近くのカフェで小休止。

カフェ文化の浸透によって僕たちが得たものは大きいなとあらためて感じる。

鞄に文庫を一冊入れておけば珈琲を待っているあいだに小さな世界に没入することができるし、手ぶらでも店内の軽妙な音楽に身を委ねながら、ボーッとしていることもできる。

右奥は持ち帰り用に購入したシュガーツイスト。いま食べたっていいんだよ、と誘惑してくる。

さて、午後は何をしようか。

GastronomieStyle

真鯛のソテー

少しゆっくりめのお昼を地元のビストロで。

肉料理も勿論好きだけど、のんびりした休日を味わいたい時は魚料理を選ぶことが多い。

皮のカリッとした感じと白身のフワッとした感じが絶妙でナイフを持った手が止まらなくなる。

Gastronomie

胡桃 (くるみ)

心の洗濯のために温泉へ浸かりに行く。

熱い湯で体をほぐして、水をいっぱい飲んで、蕎麦を食べる。

『くるみだれ』の蕎麦があればいいな、と思っていたら、お店のメニューには『十割蕎麦 くるみだれ』の文字が。

日曜日はこうでなくちゃ。

Gastronomie

秋には秋の

どの季節が好きですか?

と問われたら、僕はたぶん「夏かな」と答える気がするけれど、秋には秋の楽しみがある。

栗やサツマイモなどの甘いもの、キノコや秋刀魚。「季節の旨いもの」が沢山並ぶ。

少し冷える日にはお店に入って温かい飲みものを出してもらう。

ホットチョコレートを (心のなかで) フーフー言いながら楽しむ秋の午後。

Lectio

ヨーロッパが減るといけないから

- さらに画伯はひろいつづけてポケットがいっぱいになったころ、こんどはもとの地面にもどすべく一つずつ落としはじめた。

「ヨーロッパが減るといけないから」

というのが、理由だった。画伯の実感は私にも伝わった。

十六世紀以来、私どもの文化を刺激しつづけてくれたヨーロッパは、

それが尽きるサグレス岬まできてみると、もう地面がこれっぽっちしかないのかというかぼそい思いがしてくる-

司馬遼太郎 / ポルトガル・人と海

Gastronomie

急にマグロ丼が食べたくなって

近くに用事があって築地に立ち寄る。

時計を見ると丁度お昼時でお腹がすいている。

何年か前ならこの辺りは沢山の人が行き交う場所であったのに色々なことが(本当に色々なことが)あって、

今では大抵の店にそれ程待たされることなく入れるようになっている。

ときどき無性に魚が食べたくなる時がある。基本的には焼いたり煮たりしたものではなくて刺身がいい。酢飯と一緒だと尚良い。

その衝動をもっとも簡潔に満たしてくれるのがマグロ丼で、いつか食べにいきたいと密かにストックしているお店がいくつかあって、この店もその一つだった。

なにしろ極上の丼を堪能したあとにはパリパリの海苔をお好みで手巻きにして愉しむこともできるのだから。