
小さい頃、自分の人生にもやがて終わりが来るという事実を受け入れられなくて、うまく眠れない時期があった。
暖かい布団に包まれて眠ってしまえばこのまま朝が来ないかもしれない。いつもの朝の光が僕を起こしてくれない時が来るかもしれないという「可能性」は、あの頃の僕の心にくっきりとヒビを入れた。
もう少し大きくなって毎日が忙しくなるとそんなことを思い煩うような時間も余裕も無くなって、その時の気持ちは奥の方にしまいこむことができた。あるいは、成長期に訪れた巨大な睡魔がどこか遠くへ押し流してくれたのかもしれない。
それでも時々、あたりまえのように毎日を過ごせていることを不思議に思うことがある。
子供たちの頭を撫でながら寝かしつけている時。もうこの世にはいない昔の人が書いた小説を読んでいる時。ひとりで散歩している時。
先日、もうすぐ小学生になる子供が夕飯のときに「今日が終わって欲しくない」と突然泣き出したのを見て、人間ってなんて美しいんだろうと思った。
人の寿命を誰が決めているのか僕には全然わからないけれど、もう少し時間が欲しいとあらためて思う。