
- その情というもののなかには、ちょっといつも悲しみというのがあるんじゃないか。寂しさとか。
日本語で悲しみというと、なんかお涙頂戴みたいになるけど、そうじゃなくて、日本人だけじゃなくて人間が持っている本性、要するに、芸術が人間の生きていることに交わるとき、どこかにある寂しさとか悲しさ。
なぜかというと、人間には必ず死ぬという運命がある。生まれた瞬間にだれかと別れなきゃいけないとか、会えば必ず別れというものがあるとか、そういう寂しさもあるし悲しさもある。
人間の情というもののなかに必ず悲しみがあるとすると、音楽は、理屈なしに、それを出すのに一番手っ取り早いものを持ってたんじゃないか。
音楽の響きのなかにそれがあるんじゃないか -
小澤征爾*大江健三郎 / 芸術が人間を支える