Lectio

「夏」とは一つの気候であるが、しかしその気候は人間の存在の仕方である。ただ気温の高さと日光の強さとのみでは我々は「夏」を見いださない。

- シンガポアについた夕暮れ、町へドライブに出かけた旅行者は、草木の豊かに生い茂った郊外でにぎやかに鳴いている虫の音を聴いた時、

あるいは露店の氷屋や果物店が立ち並んでいる間に涼みの人たちが白い着物で行き来する夏の夜の町の風景をながめた時、

初めて強く「夏」を感じ、近い過去に日本に残して来た「冬」との対照を今さらに驚くのである -

和辻哲郎 『モンスーン』

Lectio

山があるから

もし地球外生命体なるものがいたとして、

彼らがたまたま偵察に来た際に見たのがこの場面だとしたら、どう思うのだろうか。

自然に恵まれた地球という惑星で最も険しいと思われる場所を、さして強靭でもなさそうな人間という生物が列を成してゾロゾロ歩いている。

どう見ても食糧を得るためではなさそうだし、かといって資源獲得のためでもない。

もし万が一、登山者の一人が捕らえられ、理由を問われたとしたら、やはりあの台詞を吐くのだろうか。