
- 北を向いてほしいと思いながら私は祖父の顔を見つめていたし、相手が盲目だから自然私の方でその顔をしげしげ見ていることが多かったのだ。
それが人の顔を見る癖になったのだと、この記憶で分った。私の癖は自分の家にいた頃からあったのだ。
この癖は私の卑しい心の名残ではない。
そして、この癖を持つようになった私を、安心して自分で哀れんでやっていいのだ。
こう思うことは、私に躍り上りたい喜びだった。
娘のために自分を綺麗にして置きたい心一ぱいの時であるから、尚更である。
娘がまた言った。
「慣れてるんですけど、少し恥かしいわ。」-
川端康成 『日向』