
- ほんの些細なことがその日の幸福を左右する。-迷信に近いほどそんなことが思われた。
そして旱 (ひでり) の多かった夏にも雨が一度来、二度来、それがあがるたびごとに稍々 (やや) 秋めいたものが肌に触れるように気候もなってきた。
そうした心の静けさとかすかな秋の先駆は、彼を部屋の中の書物や妄想にひきとめてはおかなかった。
草や虫や風景を眼の前へ据えて、ひそかにおさえてきた心を燃えさせる、-ただそのことだけがしがいのあることのように峻には思えた-
梶井基次郎 『城のある町にて』
いつの頃からか、” 城跡 ” を好きになった。
もっと若い頃、そこには観るべきものはないように思われたけれども、そうではないと後でわかった。