Lectio

だから勤労とは別の、生活の場所でも、自分がここにいる理由、いていい理由、いなければならない理由を見失うということはなかった。

- 「勤労」以前の「家業」のような、土地に根を下ろした生業 (なりわい) には、専門の技術者たちによる分業のシステムが差し込まれていないので、

単一の仕事に従事することはまだふつうのことではなかった。いいかえると、だれもが複数の技を身につけていた。

仕事の合間に、近所の人に家や備品の修繕を頼むとか、魚を捌いてもらうとか、

さまざまの技術を提供しあうということが、暮らしのふつうの風景としてあった-

伊藤洋志 『ナリワイをつくる』

鷲田清一 / 解説 「なりわひ」と「なかなひ」