
-どこかで夜、花火があげられるときほど美しいものを、ぼくは知らない。
青や緑の光の玉ができて、暗やみにのぼってゆく。
ちょうどいちばん美しくなったとき、小さい弓形を描いて消える。
それをながめていると、喜びを、そして同時にまた、すぐに消えてしまうのだという不安をいだく。
それが結びついているから、花火がもっと長くつづく場合よりずっと美しいのだ。
そうじゃないかい?-
ヘルマン・ヘッセ 『クヌルプ』
小さい頃の僕は、毎年夏の花火を楽しみにしている子どもだった。
ある年の夏祭りの花火は僕にとってこの世にこれ以上美しいものがあるだろうかというくらい綺麗で、
家までの帰り道を誰とも口を聞かず、布団に入っても全然眠れなかったことがある。
その次の年、僕はまた同じ場所へ行って、同じように花火を観たのに、もうそれまでのような感動は失われてしまっていて、花火というよりもなんだか自分自身にがっかりしてしまったのを覚えている。
あれは単に僕にとっての幼年期の終わりみたいなものだったのかもしれないけれど、いつかもう一度だけでも、あの時のような気持ちで花火を眺められたらななんて密かに思っている。