
-ときたまハンスは自分の近くに寄ってきて、自分のものになってくれる、それはそうだ。
一体その人はどんなふうにして王様を裏切ったんだい、トニオ君。
ハンスはこうたずねて、腕を組んだではないか。
けれどもそれからあのイムメンタールがやってくると、やれやれといった格好で、自分を見捨てて、なんの理由もないのに自分の耳慣れぬ名前を非難するのだ。
そういうことすべてを見抜かざるをえぬとは、なんという苦しいことだろう。…ハンス・ハンゼンは、二人きりのときは嘘ではなく自分を好いていてくれるのだ-
トーマス・マン 『トニオ・クレーゲル』