
-菓子皿のなかを見ると、立派な羊羹 (ようかん) が並んでいる。
余は凡ての菓子のうちで尤も羊羹が好だ。別段食いたくはないが、あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、
どう見ても一個の美術品だ。
ことに青味を帯びた煉上げ方は、玉と蠟石の雑種の様で、甚だ見て心持ちがいい。
のみならず青磁の皿に盛られた青い煉羊羹は、青磁のなかから今生れた様につやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる-
夏目漱石 『草枕』
以前、仕事の関係で美術品蒐集家の方を訪ねたときのことを思い出した。
その方は「手で触れてみなければわからないこともある」という考えをお持ちで、実際にコレクションの一部に触れさせてもらう機会を頂いた。
それ以来、美術館でツルリとした磁器などを眺めては「あぁ一度でいいから触れてみたい」なんて思ってしまう。