Lectio

御退屈だろうと思って、御茶を入れに来ました

-菓子皿のなかを見ると、立派な羊羹 (ようかん) が並んでいる。

余は凡ての菓子のうちで尤も羊羹が好だ。別段食いたくはないが、あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、

どう見ても一個の美術品だ。

ことに青味を帯びた煉上げ方は、玉と蠟石の雑種の様で、甚だ見て心持ちがいい。

のみならず青磁の皿に盛られた青い煉羊羹は、青磁のなかから今生れた様につやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる-

夏目漱石 『草枕』

以前、仕事の関係で美術品蒐集家の方を訪ねたときのことを思い出した。

その方は「手で触れてみなければわからないこともある」という考えをお持ちで、実際にコレクションの一部に触れさせてもらう機会を頂いた。

それ以来、美術館でツルリとした磁器などを眺めては「あぁ一度でいいから触れてみたい」なんて思ってしまう。

LectioLiving

甲州では「ほうとう」、群馬では「おっきりこみ」

-そのころ、春一番は乾徳山ときめていた。灌木帯を抜けると、いちど草地に出て、それからちょっとした岩場と、それなりに変化に富んでいる。

山梨の名刹 (めいさつ) 恵林寺の山号が乾徳山で、定規ではかったように寺の真北にある。

ホトケさまに見守られているぐあいで、安心して登れる-

池内 紀 『旅の食卓』

春一番、ではないのだけど、僕にとっても甲州は特別な場所のひとつで、暇を見つけては家族で訪れている。

6月になればまた塩山の農園で真っ赤に実ったさくらんぼ狩りができる、ほうとうを腹いっぱい食べられる、というのが心の支えでもあったのだけど。今年はそれも難しいのだろうか。