Lectio

高いとこのながめは、アアッ (と咳をして) また格段でごわすな

-「ああ、そうですな」

少しまごつきながらそう答えた時の自分の声の後味がまだ喉 (のど) や耳のあたりに残っているような気がされて、

その時の自分と今の自分とが変にそぐわなかった。

なんのこだわりもしらないようなその老人に対する好意が頬に刻まれたまま、峻はまた先ほどの静かな展望のなかへ吸い込まれていった。

風がすこし吹いて、午後であった-

梶井基次郎 『城のある町にて』

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