IdeaLiving

アナログ

デジタルの世界では要件みたいなものがちゃんと設定されていて、AとBが満たされたらCねってことになるけれど、現実の世界はそうじゃないって僕は思っている。

小学生の頃、習いごとの夏合宿の参加要件は「4年生以上」となっていて、当時2年生だった僕は合宿には参加できないと先生から聞かされた。

僕は全然そのことが納得できなくて、家に帰ってまだスーツを着たままの父に向かって猛烈な勢いで話をした。涙が出てきたけど構わなかった。

父は何も言わずにその場で先生に電話をしてくれた。

まず第一に嬉しかったのは、父が僕の気持ちをわかってくれたこと。

それから先生が規則を破ってまで僕の参加を認めてくれたこと。合宿所でも上級生が僕を受け入れてくれたこと。

別に合宿なんて大したことじゃないんだよ、あと2年待てばいいだけじゃないかと、誰も言わなかったこと。

考えてみれば、新卒で入った会社が当初掲げてた要件だって僕はちっとも満たしていなかったし、大学も似たようなものだった。

この世界はそういうことばかりで、だから苦しくて、楽しい。

IdeaLectio

冬の旅

-ハンドルを握ってシューベルトの『冬の旅』を聞きながら青山通りで信号を待っているときに、ふと思ったものだった。

これはなんだか僕の人生じゃないみたいだな、と。

まるで誰かが用意してくれた場所で、誰かに用意してもらった生き方をしているみたいだ。

いったいこの僕という人間のどこまでが本当の自分で、どこから先が自分じゃないんだろう。

ハンドルを握っている僕の手の、いったいどこまでが本当の僕の手なんだろう-

村上春樹 『国境の南、太陽の西』

車って、たしかにそういうところあるよなと思う。

馬上・枕上・厠上なんて言葉もあるけど、意識の底に潜りたくてわざわざドライブに出掛けることがある。

なんだか脳内がチリチリして眠れない夜でも、乗り慣れた車を小一時間運転してみると、肩の力がスッと抜ける。

ハンドルと視線の先に集中はしているんだけど、何だか自分はそこにはいないような、不思議な感覚に包まれる。

その後の車内の充実感はBGMの選曲に大きく左右される。どんなライブハウスよりも、車内の音響で聴く(歌う)曲が、一番好きだ。