Idea

明かりが消えるとき

用事を済ませて腕時計を見ると、もうそろそろ仕事を切り上げても良い時間だった。

向こうの背の高いオフィスビルの明かりが、ひとつ、またひとつと消えていった。

最後に部屋を出る社員がパチリと明かりを落とし、鍵をかけ、家路につく姿を想像してみた。

早く息子たちの顔が見たいと思った。

Lectio

言葉は眼の邪魔になるものです

-例えば、諸君が野原を歩いていて一輪の美しい花の咲いているのを見たとする。

見ると、それは菫(すみれ)の花だとわかる。

何だ、菫の花か、と思った瞬間に、諸君はもう花の形も色も見るのを止めるでしょう。

諸君は心の中でお喋りをしたのです。

菫の花という言葉が、諸君の心のうちに這入って来れば、諸君は、もう目を閉じるのです-

小林 秀雄 『美を求める心』