IdeaSafari

いい靴

風のあまり強くない冬の晴れ間なんかに長い時間をかけて散歩していると、

ハイデルベルクを訪れた時のことを思い出す。

中央駅の近くで朝食を食べてしまうと、その日いちにち、何ひとつ予定が入っていない。

お金もないから別に土産ものを探すでもなく旧市街をただひたすら歩く。

お腹が空いたところでカリーヴルストだの、ザワークラウトだのを食べながらひと休みし、また延々と歩いた。

夕方、これだけ歩いても全然脚が痛くならないなんてとちょつと気を良くして宿へ戻ると、「君はいい靴を履いてるね」と相部屋の仲間 (イタリア人だったかな) が言ってくれた。

メーカーも、どこで買ったかすらも思い出せないようなスニーカーだったし、長いこと履いてきたせいで幾分擦り切れてはいたけれど、頑丈で、僕の足によく馴染んでいた。

そう言われてみればそうかもしれないなと思いながら、礼を言ってベッドに潜り込んだ。

IdeaLectio

絵という窓

羽生 輝『北の浜辺』

ぼんやりと新聞を読んでいて、北国の海岸沿いの町を描いた絵に目がとまる。

なんとなく懐かしい雰囲気もあるな、なんて思いながら眺めていると、ふと自分が移動してしまうような錯覚に陥った。

もちろん僕は令和の時代の東京を生きているわけだけど、絵というものがときには時代や空間を超えさせる力を持っているんだなとあらためて気付く。

Lectio

どちらかの本の中のプレヴェールは、鏡の中のプレヴェールです

-プレヴェールを正確に理解することは、僕にとってそんなに大切なことではないともいえるのです。

プレヴェール流にいえば、僕はプレヴェールを考えないで、プレヴェールを眺めるのが本当は好きなのです。

ここだけの話ですが、それよりもっと好きなのは、プレヴェールを夢見ることです-

谷川俊太郎 『ほれた弱み-プレヴェールと僕』